日本での風力発電の発電割合は、いまだに約1%しかありません。
平野部が少なく風力発電を有効活用できないこと、コストが高いことが挙げられます。
そこで、広範囲における建設コストも低い「浮体式洋上風力発電」が注目されています。
浮体式洋上風力発電とはどんなものなのか、どんなメリット、課題があるのかを知っていきましょう。
浮体式洋上風力発電とは
地上に固定された風力発電をイメージできる人は多いと思いますが、浮体式の風力発電はどんなものかイメージしにくいですよね。
洋上風力発電とは、風力発電のプロペラを海の上に浮かべるタイプの発電方式です。
海底に設置する着床式洋上風力発電と比べて、浮体式洋上風力発電は幅広い海域に設置できるため、深い海では着床式より低コストで済みます。
浮体式洋上風力発電は、アンカーやチェーンで風車を海上につなぎとめて固定します。
陸上より安定的に強い風が吹いている、生活エリアから離れているため騒音や景観問題が発生しないなどの理由から、全国で注目されている風力発電なのです。
陸上風力発電との違い
陸上風力発電は、陸地沿岸部や山岳部に設置される風力発電です。
浮体式洋上風力発電は、海の上に浮いた状態で設置されるので、真逆の風力発電と言ってもいいでしょう。
陸上風力発電は低コストで設置でき、技術ハードルも低いので、今まで採用されていました。
しかし、陸地で風が強く吹いて広い土地がある場所は限られています。
そのため、洋上風力発電の導入メリットの方が大きいと考えられ始めているのです。
浮体式洋上風力発電は4種類ある!
浮体式洋上風力発電には、種類が4つあります。
画像出典元:東京電力
バージ型
バージ型は、水深50~100mの位置に設置する箱舟のような形をした浮体にプロペラを設置したタイプです。
ポンツーン形式とも呼ばれています。
構造が単純なため、低コストで抑えられることに加え、技術が確立されていて建造ハードルが低いなどの特徴があります。
浮体が短いため、水深の浅い場所でも設置できる点がメリットですが、その分波や風の影響を受けやすく、設置可能領域が制限されます。
セミサブ型
セミサブ型は、バージ型の課題を改良したものです。
浮体の大部分を海中に沈め、浮体上に作った複数の突起物を基盤に発電を行う、水深50m以上の場所に設置するタイプです。
浮体の大部分を沈めることで風や波の影響を受けにくくし、設置可能な範囲を広げることに成功しました。
しかし、浮体とその上に設置する突起物の構築、発電設備の設置などが増え、工事が複雑化してしまいました。
スパー型
スパー型は、水深100m以上の場所に設置する、円柱状の浮体にプロペラを設置したタイプです。
浮体の重心を下げたことで安定度が増し、波浪条件の厳しい沖合にも設置できます。
セミサブ型とは違い構造が単純なため、低コストであり建築ハードルが低いです。
しかし、浮体が縦に長いことから水深の浅い場所には設置できず、設置ハードルが高いです。
TLP型
TLP型は、水深50~100mの場所に設置する、強制的に半浸水させた浮体を垂直にきつく張った杭・アンカーで固定するタイプです。
浮体が軽量でコストが安い、アンカーをきつく張っているため風や波による影響が少ないというメリットがあります。
一方、係留システムに費用がかかるというデメリットもあります。
浮体式洋上風力発電が注目され始めた背景
日本で浮体式洋上風力発電が注目され始めたのは、日本の風と海域の特徴に関係があります。
まずは、日本で陸上風力発電が普及しない理由から知っていきましょう。
陸上風力発電が普及している欧州は、偏西風が吹くため安定的な風量を確保できます。
加えて土地も広いため、風力発電を大量に設置する土地が確保できるのです。
一方、日本は安定的な風が吹くのは海沿いの一部のみであり、風力発電に適した土地が少ないという点があります。
また、日本は台風が多いため、安全面でも風力発電に向いていないのです。
しかし、海上であれば設置範囲を気にすることなく、常に安定した風を得ることができます。
そこで、洋上風力発電に焦点が当てられました。
イギリスでも洋上風力発電が拡大していますが、日本はイギリスのように遠浅の海が少ないため、着床式洋上風力発電は導入できません。
そこで、水深が深い場所でも設置できる「浮体式洋上風力発電」が注目され始めたのです。
そして、2020年12月に政府が発表した「2050年に伴うグリーン成長戦略」で、浮体式洋上風力発電への関心が加速しました。
風による発電は、
燃料を必要としないため輸入のコストもかからないこと
洋上風力発電は大規模かつ大量に導入できること
日本の海域に合っていること
以上の点から、将来の主要な再生可能エネルギーになると考えられ、導入が積極的に進められています。
浮体式洋上風力発電のメリット
浮体式洋上風力発電のメリットはどんなものがあるのか、具体的に知っておきましょう。
コストを抑えられる
浮体式洋上風力発電は、海底に支柱を建てる必要がありません。
そのため、水深が深い場所でも設置できます。
日本は遠浅ではないので、深い場所に支柱を建てるとなるとかなりのコストがかかりますが、浮体式であれば建設コスト、設置コストを安く抑えられます。
騒音など近隣トラブルがなくなる
陸上風力発電は、陸地に設置されているため近くの住人への騒音トラブルや景観問題が発生します。
設置前に近隣住民との交渉が必要になるため、設置までに時間がかかるケースも多いでしょう。
一方、洋上風力発電は海の上に設置するので、近隣住民への騒音や景観問題がなくなります。
人に配慮する必要がないため、その分設置までの時間も短縮できます。
風の力を効率よく利用できる
浮体式洋上風力発電は固定されていないので、風の向きに合わせて移動させることができます。
そのため、風の力を最大限に利用でき、効率よく電気を貯蓄できます。
浮体式洋上風力発電の課題、デメリット
メリットが大きいことは分かりましたが、まだまだ課題もあります。
浮体式洋上風力発電のデメリットを把握しておきましょう。
陸上よりもコストがかかる
浮体式は着床式に比べて低コストで済むとはいえ、陸上風力発電よりはコストがかかってしまいます。
海の上に設置するので、風車をそこまで運ぶ手間が発生します。
加えて、浮体部分の基礎工事にも高額なコストがかかるため、陸上風力発電よりも圧倒的にコストがかかるのです。
また、貯蓄した電気を陸まで運ぶための送電線を整備する必要もあるため、陸地から離れるほど整備コストがかさんでしまいます。
メンテナンスコストが高い
海の上では常に海水や強風の影響を受けるため、陸上よりも風車や設備の寿命が短くなります。
定期的に行うメンテナンスのスパンが短く、メンテナンスコストが高いのも課題です。
作業が海況に左右される
設置作業やメンテナンスは海の上で行う必要があるため、海況が悪いと船でその場所まで行けないことも多々あるでしょう。
台風などで海況が悪い日が長引くと、定期メンテナンスができなくて風車や浮体にトラブルが発生するリスクもあります。
海況によってスケジュール通りに作業できないことで、作業効率が落ちてしまいます。
生態系への影響
洋上風力発電設置時の騒音や稼働時の振動による生態系や水質への影響が懸念されています。
その対策として、洋上風力発電の周辺に岩礁性藻場の造成、回遊魚の経路に岩礁効果を持つ浮体式洋上風力発電施設を設置することで、生物の多様性を促進させて生態系への影響を最小限に抑えるなどの工夫をするそうです。
日本で普及できるの?
コストやメンテナンスなどの手間を考えると、すぐに普及するとは言いにくいです。
しかし、2020年12月に閣議決定された「洋上風力産業ビジョン」では、2030年までに浮体式洋上風力発電の累積導入目標を10GW、2040年までに30~45GWの案件形成を目標として掲げています。
加えて、自然エネルギー財団が浮体式洋上風力発電普及の第一段階として、2030、31年に50万キロワット級の浮体式洋上風力発電所2カ所を商業運転させるように提言しています。
このように、国を挙げて風力発電の普及を目標に掲げているため、2030年までに浮体式洋上風力発電の普及が進んでいく可能性が高いです。
また、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すという目標もあるため、二酸化炭素の排出量が少ない風力発電の導入が拡大しています。
このような動きから、今後風力発電自体の導入率が急激に増えることが期待できます。
浮体式洋上風力発電の導入事例
浮体式洋上風力発電の導入事例を紹介したいと思います。
日本の導入状況や海外との違いを確認してみてください。
長崎県五島市
長崎県五島市崎山漁港の沖合に設置されている、日本初の2MW浮体式洋上風力発電。
種類は、細長い円筒状の浮体であるスパー型で、浮体構造の上部には鋼、下部にはコンクリートを使用した「ハイブリッドスパー型」と呼ばれるものです。
コンクリートは水圧や海水にも強いため、浮体下部に用いることでコストを安くするとともに重心を安定させることができます。
福岡県北九州市
福岡県北九州市では、2019年にバージ型浮体式洋上風力発電の実証運転を開始しました。
北九州沖約15km、水深約50mの場所に設置されています。
実証機システムから得られる発電量・波圧・係留力などの数値を比較して設計の妥当性を評価し、
遠隔操作型の無人潜水機を使用した浮体や係留システムの維持管理、故障を予測し事前に予防する技術を取り入れたメンテナンスなど、
安全性・信頼性・経済性を明らかにすることで、低コストの発電システム技術の確立を目指しているそうです。
スコットランド
2017年10月末、世界最大の浮体式洋上風力発電所がスコットランドで稼働を開始しました。
タービンの総出力は30MW、全長253mと最大規模、種類はスパー型です。
この風車が5基設置されているため、約2万世帯に電力を供給できます。
着床式洋上風力発電は、水深50mを超えると採算を取るのが難しくなると言われていますが、この「ハイウィンド」は水深800mでも設置できるそうです。
まとめ
日本における浮体式洋上風力発電所は、まだ二カ所しか導入されていません。
しかし、日本の浮体式洋上風力発電による発電可能量は年間2,253TWhとアジア最大であり、大きなポテンシャルを秘めています。
欧州ではすでに商業発電が開始されているため、日本も遅れをとらないよう商業化を進めていく必要があります。
今後の動きに期待しましょう!
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