CLT工法は、施工の早さや耐震性、断熱性などで、建築の効率を上げる工法として長らく注目されています。
今回は、CLT工法・CLT建築がどんなものなのか、メリットだけでなくデメリットも紹介していこうと思います!
CLTとは
CLTとは、「Cross Laminated Timber」の頭文字をとったもので、「直交集成板」という意味です。
木の繊維方向を交差させた板を何枚も重ねて貼り合わせて作った板のことです。
まず、木材をラミナと呼ばれる細長い長方形の板に加工します。
ラミナを縦方向に並べて一枚の板を作ります。
その後、横方向に並べて貼り合わせた一枚の板と交互になるように積み重ねて接着、圧縮し、分厚い一枚の板を作ります。
これがCLTです。
分かりやすく言うと、ジェンガのように交互に交差させて作るのです。
CLTで建物を造ることを「CLT工法」、CLTで造られた建物が「CLT建築」といいます。
CLTは1995年にオーストラリアを中心に発展し、現在ではヨーロッパ各国のさまざまな建築物で利用されています。
近年では世界各国でCLTが普及してきているようです。
CLTは共同住宅やホテル、高層建築などに利用されており、近年では東京オリンピック・パラリンピックの選手村にもCLT工法が用いられたそうです。
集成材との違い
CLTと集成材は、どちらも小さな板を張り合わせて1枚の大きな板にしているという点は一緒ですが、その張り合わせ方が異なります。
集成材は、繊維方向を張り合わせたものをいいます。
構造用と造作用の2種類があり、構造用は住宅の柱や梁、造作用は内装や家具に使われます。
集成材は、横と縦の繊維を交差させるCLTよりも構造がシンプルなのです。
また、1枚の大きな単板を重ねて厚みを出した合板というものもあります。
CLTは、集成材と合板のメリットを組み合わせたものなのです。
CLTのメリット
では、CLTのメリットとは何なのでしょうか。
CLTを利用するメリットを知っていきましょう。
施工が早い
CLTは、あらかじめ工場で加工してから現場に運ばれるため、現場で組み立てるだけで建築ができます。
組み立ての接合がシンプルなので、経験の浅い作業員でも簡単に組み立てることができます。
人手不足の深刻な建設業では、複雑なスキルがいらないという点もメリットになります。
また、寸法精度が高いため、現場で歪みの調整を行う手間がかからず、スムーズに施工できます。
CLTを利用したことで、欧州では9階建ての建物が9週間で完成したそうです。
RC構造では通常29週間はかかるので、20週間も工期を短縮できたのです。
このように、CLTの利用は工期短縮につながります。
重量が軽い
CLTは、鉄筋コンクリートに比べて1/5以下の重量です。
軽量であることで、地盤補強コストや材料輸送コストが軽減されます。
また、軽い割に強度が高く、曲げの強さは鉄の15倍以上、コンクリートの400倍以上に匹敵します。
引っ張りの強さも、鉄やコンクリートよりも圧倒的に高いため、床板や壁にもCLTが採用されることが多くなっています。
高い耐震性
地震の多い日本において、耐震性は特に重視すべき点ですよね。
CLTは、板を重ね合わせることで強度が上がり、地震にも耐えられます。
また、地震エネルギーは建物の重さに比例します。そのため、重さの軽いCLTは地震の影響を受けにくいのです。
阪神淡路大震災クラスの地震を再現した実大振動台実験では、他工法の建物が使用不可能な状態に陥ったのに対し、CLT工法の建物は1階の高さで3㎝程度の変形にとどまり、地震後も使用可能な状態でした。
高い耐火性
木材は火に弱いため、耐火性が低いと思いがちです。
しかし、CLTは表面は燃えるものの毎分1㎜の速さでゆっくり燃え進むため、厚さ90㎜の壁が1時間たっても焼け落ちずに耐え続けました。
燃え広がるのに時間がかかるので、人命を守ることはもちろん、鎮火もしやすいのです。
高い断熱性
木の熱伝導率は、コンクリートの1/10、鉄の1/350と言われています。
もともと断熱性の高い木材を重ね合わせているので、冬は室内の熱を逃さないため暖かく、夏は外の熱を通さず涼しい環境が保てるのです。
環境に優しい
CLTが広まることで、木材利用が増加して森林活用が活発化します。
育てた木を正しく収穫し利用することで、森林をバランスの取れた状態にできます。
そうすると、枯れて無駄になる木がなくなり、自然の健康状態を守れるのです。
これは、地球温暖化やCO2排出を防ぐことにもつながります。
また、CLTは製材としては使えない曲がった木材も切り出して利用できます。
CLTを普及させることで、木材の無駄をなくすことにもつながるのです。
なかなか普及しない・・・デメリットは?
こんなにサステナブルな木材であるのに、日本ではなかなか普及していません。
その理由はどこにあるのでしょうか。
CLT利用のデメリットを見ていきましょう。
高額なコスト
CLTが日本で普及しない大きな理由は、価格が高いことです。
日本での価格相場は、1㎡あたり15万円です。
これは、CLTが日本に入ってきたのが2013年と最近であり、CLT製造事業所は8カ所しかないことにも関係しています。
また、普及し始めたばかりで需要がないため、製造所の増加や価格競争が起きないのです。
このように、製造所の数や需要が少ないことから、価格が高騰しているのです。
情報の少なさ
CLT工法は、日本においてまだ新しい技術のため、十分な施工実績や工法に関する情報が少ないです。
今までとは異なる建築技術が要求されるため、人手不足な建設業ではそれを学ぶ余裕がなく、活用を避ける企業が多いのです。
しかし、近年は国による整備が進み、標準的な設計モデルが確立されてきています。
供給体制が不安定
現在、CLT製造事業所は日本に8カ所しかありません。
加工できる工場が限られているため、安定したCLTの供給体制ができる保証がありません。
建築スケジュールが立てにくく、CLTを採用する建設会社が少ないのです。
CLT建築の事例3選!
日本ではまだそこまで普及していないCLT建築ですが、建築事例は存在します。
そのうちの3つを紹介したいと思います。
金沢信用金庫 大聖寺店
CLT工法を利用した金融機関です。
内壁だけでなく、外壁や床板、屋根にもCLT工法が採用されており、全体的に暖かい印象を与える建物になっています。
金融機関で初めてのCLT建築であり、耐火性や耐震性、断熱性の高さで多くのお客様に快適に過ごしていただける空間になっています。
省エネにも貢献しており、旧店舗と比べてエネルギー消費量32%の削減を図っているそうです。
Port Plus
神奈川県横浜市にある、日本初の11階建て高層純木造耐火建造物です。
大林組が建設した「宿泊できる研修所」であり、新しい学びを得る場所として利用されています。
全体はガラス張りですが、木造の基礎構造が露出していて圧倒的な存在感を放っています。
床材にCLT工法を採用していますが、軽量である分、衝撃音が課題となっていました。
そこで、大林組は耐火被覆したCLT床と表面仕上げの間に構造用合板の根太を配置して、板バネにすることで衝撃音を軽減した「乾式CLT遮音床」を開発しました。
構造部分では、柱の少ない部分は中間梁やCLT耐震壁を組み合わせて剛性と耐力を高めています。
このように、CLT工法と他工法、建材を組み合わせることで、CLT工法よりも優れた効果を発揮する構造を作り上げています。
株式会社WOOD GUIDEの事務所
軽トラサウナBOXの販売を行っている会社です。
屋根がサッカーボールのようなジオデシック構造になっており、軽量で風や地震に強いというメリットがあります。
外観だけでなく中身も、木の温かみを感じられる色合いになっており、ジオデシック構造のおかげか、部屋の中が広く見えます。
CLTの効果で耐震性、耐熱性、断熱性を兼ね備えており、いつでも快適な状態で仕事ができます。

このように、CLTは構造上のメリットだけでなく、外観も私たちに温かみと安心を与えてくれます。
今後の国の支援により、CLT建築が主流になることを願っています。
まとめ
CLT構造は、住人にも環境にも良い影響をたくさん与えてくれます。
欧州のように、日本でも当たり前に使える工法となることを願います。
そうすれば、一番心配の大きな地震においても、大きな被害を出さなくて済むようになるかもしれません。
日本の建設技術を促進するために、建設業を変えていきましょう!
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