従業員にとって、退職金があるかどうかは重要な部分ですよね。
建設業でも、従業員が安心して働けるように「建設業退職金共済制度」というものがあります。
今回は、この制度について詳しく話していきたいと思います。
建設業退職金共済制度(建退共)とは
建設業を対象に、「中小企業退職金共済法」という法律により国に作られた制度です。
職場や現場が変わっても、働いた日数分の掛け金が退職時にすべて支払われるという仕組みになっているので、職場が変わっても建設業界内であれば新しく退職金制度に入りなおすなどの手間がありません。
また、転職前後の労働日数を通算することもできるので損がないです。
ただ、長い間加入しているほど得をする制度なので、早めに加入して方がいいようです。
対象は建設業のみという特徴もあります。
一日働いたら320円分の証紙をもらえるので、それを共済手帳に貼っていって貯めていくという流れです。
1日320円ずつ積み立てていくと考えるとイメージしやすいかもしれません。
☆40年建設業で働き続ければ、約426万円もらうことができます。(令和3年10月1日以降に加入した場合)
中小企業退職金共済制度との違い
中小企業退職金共済制度は、中小企業のための退職金制度です。
中小企業の事業主が退職金共済契約を行い、契約した事業主が毎月掛け金を納めて、従業員が退職する際に中退金事業団から個人に退職金が支払われるという流れになっています。
中退共は加入対象が建設業に関わらず中小企業全般になっています。
従業員・企業にとってのメリット・デメリット
建退共にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
また、デメリットについても確認していきましょう。
メリット
簡単で安全な制度
建退共は、独立行政法人勤労者退職金共済制度という機構によって運営されているため、余計な手続きを行う必要がありません。
また、退職金の支払いは国が定めた基準によって計算され支払われるため、確実性が高く安心して加入できます。
転職後も引き継ぎできる
建設業内の転職で、転職先の企業も建退共に加入していれば加入期間が通算されます。
会社を変えても引き続き退職金がたまっていくのはありがたいですよね。
国からの補助がある
新しく建退共に加入した従業員に対し、「建設業退職金共済手帳」が最初に交付される際に50日分の共済証紙(総額16000円分)が国から補助されるそうです。
掛け金は損金扱いにできる
掛け金は全額、法人では損金、個人事業主では必要経費として扱われます。
節税することができるのは大きなメリットですよね。
加入者限定の割引サービスあり
建退共に加入している従業員は、建退共と提携しているホテルやレンタカーなどを割引料金で利用できます。
詳細はこちらの提携サービス一覧をご覧ください。
デメリット
企業は掛け金の負担が生じる
建退共の掛け金は全額事業主が負担します。
一人当たり1日320円の負担ですが、従業員数や雇用数が多いと負担も大きくなります。
経営状態をしっかり把握し、建退共の導入が企業の負担にならないと判断できてから導入をするようにしましょう。
企業の解約は被共済者の同意が必要
企業がなんらかの理由で建退共を解約したい場合、被共済者の同意が必要になります。
事業主が一方的に解約を決めることができないので、解約は計画的に行う必要があります。
最低1年は加入する必要がある
従業員が建退共に加入した場合、最低1年は加入し続けなければ建退共から退職金を受け取ることができません。
建退共に加入していた従業員が死亡してしまった場合も建退共の退職金をもらうことはできますが、加入して1年未満だった場合は退職金をもらうことができないことも覚えておきましょう。
建退共の加入方法
まずは加入条件を確認しましょう。
加入条件
建設業に従事するすべての事業者・従業員が加入することができます。
尚、一人親方の場合は任意組合(一人親方が集まって作られる組合)を作り、勤労者退職金共済機構がその規約について認定したとき、その組合を事業主をみなし、組合に属する一人親方を従業員とみなすことで制度を適用することができます。
任意組合を作る際は、「任意組合認定申請書」に規約および業務方法書を添えて都道府県支部に申し込んでください。
加入の流れ
①「建設業退職金共済契約申込書」及び「建設業退職金共済手帳申込書」に必要事項を記入し、各都道府県にある建退共支部に申し込む
手続き時に費用は発生せず、その申請を行うだけなので簡単です。
その際、対象となる従業員は全員被共済者となるように手続きを行ってください。
すでに被共済者になっている従業員は引き続き共済手帳を使用できるので、共済手帳をもっているか本人に確認をとってください。
➁申請書が受理され退職金共済契約が結ばれる
契約が結ばれると、「共済契約者証」と新たに被共済者となる労働者に対して「共済手帳」が交付されます。
共済契約者証は、金融機関から共済証紙を購入する際に必要なカードです。
共済手帳は加入従業員全員に交付されるもので、全国どこでも利用することができます。
今まで入っていなかった企業は、ぜひ一度加入してみてください。
共済証紙について
共済証紙とは、建退共における退職金の掛け金として使用される証紙のことです。
建退共に加入している従業員は労働日数に応じて共済証紙を共済手帳に添付する必要があります。
事業者は、従業員に賃金を支払う都度(少なくとも月1回)、その従業員を雇用した日数分の共済証紙と共済手帳に貼って消印してください。
尚、掛け金の納付は、共済証紙を購入して手帳に貼付・消印する証紙貼付方式と、あらかじめペイジーまたは口座振替により退職金ポイントを購入し、電子申請により掛け金を充当する電子申請方式の2通りで選ぶことができます。
共済証紙の種類
共済証紙には赤色と青色があり、どちらも1日券と10日券があります。
赤色は従業員が300人以下または資本金が3億円以下の中小事業主に雇われる従業員のための証紙です。
青色は従業員が300人以上かつ資本金が3億円以上の大手事業主に雇われる従業員のための証紙です。
共済証紙の購入場所
共済証紙は、最寄りの金融機関窓口で購入できます。
共済契約者証を提示して購入してください。
1日券は320円、10日券は3,200円です。
元請が工事を受注してそれを下請におろして施工する場合は、元請がその工事に必要な共済証紙をまとめて購入し、末端までの下請従業員数に応じて証紙現物を交付してください。
電子申請方式について
電子申請方式を利用するには、まず「電子申請方式申込書」に必要事項を記入し、各都道府県支部に申し込んでください。
電子申請方式では、共済証紙の代わりに「退職金ポイント」というものをペイジーまたは口座振替で購入します。
事業者は、賃金を支払う期日の翌月末日までに電子申請専用サイトでの就労実績報告を行ってください。
電子申請方式のメリットとしては、購入がネット上でできる点、貼付・消印の手間がなくなる点が挙げられます。
退職金はどうやって受け取るの?
この制度で退職金を受け取れるのは、建設業界で働かなくなった時です。
掛け金納付実績が12か月以上になった労働者が、いずれかの退職理由に当てはまる場合に退職金を請求することができます。
画像出典元:建退共 制度の手引き
退職金請求の流れは、支部から「退職金請求書」を取り寄せてもらい、必要事項を記入したら必要な証明を受け、他書類と一緒に支部に提出してください。
【必要な書類】
- ・共済手帳
- ・住民票(原本)
- ・退職所得の受給に関する申告書
- ・振込先確認書類
- ・個人番号および身元確認のための書類
尚、退職金の支払いは「口座振り込み」または「支払い通知書」で行われるので把握しておきましょう。
請求者の指定口座に振り込むか、通知書の場合は機構から通知書が送られるので指定金融機関に提出して現金で受け取ってください。
請求人が死亡した場合は、退職金は遺族に支給されることになっています。
手続きは一般の方法と同様ですが、遺族の順位によってそれぞれの書類の貼付が必要になるので詳しくは機構・本部にご連絡ください。
建退共についての疑問
建退共への加入は義務?
建退共への加入は義務ではありません。
しかし、公共工事において下請業者に建退共の対象となる従業員がいる場合は、建退共に加入して下請け業者に共済証紙を現物交付するようにしてください。
なお、建設業退職金共済事業本部のHPにて、「公共工事の発注をするための現場説明において、建退共に加入することを推進するように」という一文があるため、建退共に加していた方が話がスムーズに進む可能性はあります。
しかし、あくまで加入を勧めてくるだけなので、辞退することは可能です。
加入できない人はいる?
加入できない人はいます。
以下の条件に当てはまる人は加入できないことになっているそうです。
- 〇事業主・役員報酬を受けてる方及び本社等の事務専用社員
- 〇すでに建設業退職金共済制度の被共済者となっている方
- 〇中小企業退職金共済・清酒製造業退職金共済・林業退職金共済の各制度の被共済者となっている方
- ※ただし、中退共・清退共・林退共の被共済者となっている方が建退共に加入することとなって場合は、これまで納めてきた掛け金を引き継ぎ、建退共に移動することができます。
証紙の交付を辞退することはできる?
建退共への加入は義務ではないので、辞退することができます。
しかし、国の制度なので公共工事においては加入状況のチェックを受けることになるそうです。
建退共に加入していない場合は証紙の交付を辞退することになりますが、辞退理由が必要になります。
辞退の理由としては、
- 自社に独自の退職金制度がある
- 他の退職金制度に加入している
- 従業員が中退共の被共済者である
- 従業員が加入する意思がない
これらが挙げられます。
上3つは加入証明書の提出を求められます。
しかし、最後の「加入意思がない」を選ぶと元請等に認めてもらえない場合があるようです。
メリットも大きいので、一度加入してみる方がトラブルが少なくていいかもしれません。
建設業退職金共済制度に加入してメリットを得よう!
建設業退職金共済制度は、簡単に加入でき企業・従業員ともにメリットの多い制度です。
特に、建設業界なら企業が変わっても引き続き利用できるというのが一番のメリットですよね。
まだ退職金制度に加入していない事業者さんは、ぜひ加入してみてください。
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