建設業は高所作業や危険を伴う場所での作業が多いです。
一人親方でも従業員がいても、何か起きた時に保険に入っていると安心ですよね。
この記事で保険の重要性や種類などを学び、必要な保険に加入しましょう。
建設業の保険加入が義務化
建設業法改正に伴い、2020年10月1日から社会保険への加入が実質義務化されました。
建設業許可を得るには、保険に加入していないといけません。
すでに建設業許可を得ている場合でも、5年に1度の更新時に加入していないと許可が無効になってしまうのでご注意ください。
なぜ義務化されたのか
一番の理由は建設業における保険未加入問題の解消です。
保険に加入すると保険料を払わなければいけないので、それを回避したくて保険に加入しない企業が少なくなりませんでした。
しかし、保険未加入は若年層へのイメージ低下を招き、技術者の確保を妨げてしまいます。
建設業のイメージアップのためにも、保険に加入していて気持ちよく働ける企業を増やすためにも、保険加入が義務付けられたと言えるでしょう。
国による保険加入対策のおかげで、2020年10月時点での企業単位の保険加入率は98.6%にまで上昇したそうです。
加入すべき保険に違いはある?
加入が義務付けられているのは、雇用保険・健康保険・年金保険の3保険と呼ばれるものです。
雇用保険
雇用保険制度とは、労働者の生活および雇用の安定と就職促進のために、失業時や再就職時に給与を受け取ることができる制度です。
労働者を雇用する場合、原則として強制される制度です。
雇用保険は、常用・パート・アルバイト・派遣などの雇用形態に関わらず、
1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがある労働者が対象です。
健康保険
病院などで出したことがある人がほとんどだと思うので、一番周知されている保険ですね。
病気やケガ、それらによる休業、出産や死亡時に利用する医療保険制度です。
建設業が加入できる健康保険にはいくつか種類があります。
- 協会けんぽ
- 健康保険組合
- 適用除外承認を受けた国民健康保険組合(建設国保等)
協会けんぽとは、従業員が5人以上の個人事業主や法人に対して加入が義務付けられている社会保険です。
ただし、従業員がすでに建設国保に加入している場合、「協会けんぽの適用除外」を申請すれば協会けんぽに加入し直す必要はなくなります。
健康保険組合とは、健康保険の仕事を行う公法人で、常時700人以上の従業員がいる事業所や同種・同業で3000人以上従業員が集まる事業所が、厚生労働省の許可を得て設立することができるもののことを言います。
運営のお金は従業員と事業主が出し合っており、お互いに手助けをしながらいざという時に備えるという仕組みになっています。
健康保険組合は、財政状況に合わせて保険料を自主設定できる、プラスαの給付金を貰える、選挙で組合の運営に参加できるなど、
協会けんぽより自由度が高いというメリットがあります。
年金保険(公的年金)
公的年金は、国民年金と厚生年金の2種類があります。
国民年金は、全ての国民を対象したもので、厚生年金は会社員や公務員など、労働者として雇用されている人が国民年金と併せて加入するものです。
法人の場合は厚生年金への加入は必須で、個人事業主の場合は5人以上の従業員を雇っている場合は厚生年金の加入が必須になります。
これらにもいくつか種類があり、雇用体系で加入すべき保険が変わります。
どんな雇用体系がどの保険に入るべきなのか、図表にしたので確認してみてください。
建設業が保険に加入するメリット
人材の確保に繋がる
建設業は人手不足なので、少しでも応募者が増えるように制度を整えていく必要があります。
社会保険に加入していると、安心して働けるというメリットを求職者に与えることができるので、未加入より人材確保がしやすくなります。
従業員満足度が上がる
社会保険への加入は、従業員を守ることに繋がります。
そのため、「この会社は従業員のことを考えてくれているんだ」という安心感につながり、従業員満足度も高まるのです。
離職率が低下する
社会保険未加入のままだと、万が一の時に補償が受けられないという不安がいつも従業員の中にあります。
そうなると、ちゃんと社会保険に入っていて従業員のことを考えてくれている会社に転職しようと思う人も少なくないでしょう。
社会保険が完備されることで企業の評価も上がり、帰属意識も高まると思います。
経費として計上できる
社会保険は、福利厚生費として経費計上することができます。
そのため、事業所得を減らして税金を減らすことができるのです。
保険料はかかりますが、節税の手助けになることも忘れないでいてください。
万が一の時に自己負担が減る
建設業は危険な場所での作業が多いため、怪我をするリスクが高いです。
一人親方の場合、社会保険に入っていることで医療費の自己負担を減らすことができます。
大けがをしてしまうと高額な治療費になるので、それを抑えられると思うと作業中も安心して作業に集中することができます。
保険に入らないとどんなリスクがある?
保険に入らないことで生じるリスクを知ることで、より保険の重要性を知ることができると思います。
ここで確認していってください。
仕事に影響がでる
平成29年以降は、元請企業に対し社会保険に未加入である企業を下請けとして選ばないよう要請するとともに、社会保険に加入していると確認できない作業員は特別な理由がない限り現場入場を認めないようにとガイドラインで記載されています。
そのため、社会保険に未加入だと仕事を受けにくくなってしまうのです。
罰金がある
社会保険に加入せずしないと、まずは行政から指導を受けます。
それでも加入せず届出を行わなかった場合、社会保険部局に通報され、強制加入措置を受けたり、場合によっては監督処分(営業停止・免許取り消し等)を受ける場合があります。
また、加入の届出を行わないと厚生年金法によって6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられます。
懲役刑の場合は建設業許可が取り消され、その後5年間は取得できなくなってしまいます。
求人も不利になる
ハローワークでは、社会保険に加入していないと求人票の受付を拒否し、加入するように指導が入ります。
このように、社会保険未加入だと求人面でも不利になるのです。
保険の加入手続きと保険料
3保険それぞれの保険加入手続きの方法と保険料について解説していこうと思います。
雇用保険
会社は、雇用する労働者が1人でもいる場合、雇用保険だけでなく労災保険にも入らなければいけません。
雇用保険と労災保険を合わせたものを「労働保険」といい、建設業はそれぞれ別に申告・納付をしなければいけないのです。
【雇用保険の手続き】
雇用保険の手続きは、会社の本店がある住所を所轄するハローワークで行います。
書類名 | 添付書類 | 期限 |
労働保険 保険関係成立届 | ・登記事項証明書
・賃貸借契約書のコピー※ |
労働者を雇用した日の翌日から10日以内 |
労働保険 概算保険料申告書 | 不要
申告書の提出と同時に保険料を納付する |
労働者を雇用した日の翌日から50日以内 |
雇用保険 適用事業所設置届 | ・労働保険 保険関係成立届(提出したものの控え)
・登記事項証明書 ・許認可書類(建設業許可通知書等) ・業務契約書(工事請負契約書) ・労働者名簿 ・出勤簿またはタイムカード |
労働者を雇用した日の翌日から10日以内 |
雇用保険 被保険者資格取得届 | 不要 | 労働者を雇用した日の翌日から10日以内 |
※登記上の本店所在地と事務所所在地が異なる場合のみ
「雇用保険 被保険者資格取得届」は、新しく労働者を雇用する度にハローワークに提出しなければいけないので覚えておきましょう。
【労災保険の手続き】
労災保険の手続きは、会社の本店がある住所を所轄する労働基準監督署で行います。
書類名 | 添付書類 | 期限 |
労働保険 保険関係成立届 | ・登記事項証明書
・賃貸借契約書のコピー※ |
労働者を雇用した日の翌日から10日以内 |
労働保険 概算保険料申告書 | 不要
申告書の提出と同時に保険料を納付する |
労働者を雇用した日の翌日から50日以内 |
※登記上の本店所在地と事務所所在地が異なる場合のみ
これらの書類は、ハローワークか労働基準監督署で入手することができます。
令和3年度の建設業の雇用保険料です。
労働者負担 | 事業者負担 | 雇用保険料の合計 |
0.4% | 0.8% | 1.2% |
年々減っていますが、建設業は他事業と比べて雇用保険料が高くなっています。
なぜ高くなっているのか、下の疑問にお答えします!で説明しているので確認していってください。
健康保険
労働者が雇用され、健康保険および厚生年金保険に加入する場合、事業主は「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出する必要があります。
始めて公的年金に加入した場合は、年金手帳が交付されます。
協会けんぽが監督する事業所の場合、協会けんぽから「健康保険被保険者証 本人」が届きます。
尚、労働者は事業主が「被保険者資格取得届」を提出するために必要な書類を事業主に提出してください。
【労働者が用意する書類】
年金手帳(基礎年金番号通知書)またはマイナンバーカード(提示のみ)
書類を受け取ったら、事業主は労働者を雇用した日から5日以内に「被保険者資格取得届」を年金機構の事務センターに提出してください。
提出方法は、電子申請・窓口持参・郵送の3つがあります。
【協会けんぽの保険料】
協会けんぽの保険料は、都道府県によって違います。
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3130/
こちらから事業所がある県の保険料を確認できます。
ここでは、東京の保険料を記載しておきます。
令和3年度:9.84%
令和4年度:9.81%
また、健康保険組合に加入する場合は、一般的に以下の加入条件を満たす必要があります。
- ➀健康保険組合の適用地域に事業所の母体が存在し、適用業種を主な事業としていること
- ➁協会けんぽに一定期間加入していること
- ➂組合が設定する最低人数以上の加入ができること
- ➃扶養率・平均標準報酬月額が基準値を満たしていること
各健康保険組合によって審査が行われ、通過すれば加入することができます。
尚、上記の加入条件は一般的なものを挙げただけなので、加入する健康保険組合によって条件は変わってくるのでご注意ください。
加入方法については、加入希望の健康保険組合に連絡する必要があります。
【健康保険組合の保険料】
保険料は、毎月の給与と賞与に共通の保険料をかけて事業主と被保険者が半分ずつ負担します。
毎月納める保険料=標準報酬月額×保険料率
賞与から納める保険料=標準賞与額×保険料率
これで求められます。
健康保険組合によって保険料は違うので、それぞれ確認してみてください。
年金保険
厚生年金の加入手続きは、健康保険の部分で記載したものと同じです。
【厚生年金の保険料】
保険料は、毎月の給与と賞与に共通の保険料をかけて事業主と被保険者が半分ずつ負担します。
厚生年金の保険料は平成29年に引き上げが終わり、18.3%で固定されています。
標準報酬月額がいくらかによって、厚生年金の保険料が変わってくるので覚えておきましょう。
国民年金の手続きは、事業所がある住所の市区役所または町村役場で行います。
前職を退職した日の翌日から14日以内に年金手帳か基礎年金番号通知書を提出してください。
【国民年金の保険料】
国民年金の保険料は、令和3年度の時点で月額16,610円です。
保険料の納付期限は翌月末まで(例:1月分は2月末まで)で、保険料をまとめて前払いすると保険料が割引されます。
社会保険に関する疑問に答えます!
加入していても未納だとどうなる?
社会保険が未納だと、納付期限の1か月後に督促状が届きます。
督促状が届いても、そこに記載されている期限までに保険料を納めればなんの問題もありません。
しかし、滞納を続けると督促状だけでなく電話や訪問によって催促されるようになります。
加えて、督促状の期日までに保険料を払わないと延滞金がかかってしまい、通常より高い料金を払わなければいけなくなります。
それでもずっと未納のままだと、最終的に財産が差し押さえられる恐れも…。
保険料は期日までに必ず払うようにしましょう。
建設業の雇用保険料が高いのはどうして?
その理由は2つあります。
1つは、短期雇用特例被保険者が多く雇用されているからです。
短期雇用特例被保険者とは、季節に応じて短期間で就職と離職を繰り返す、通常とは異なる働き方をする雇用者のことを言います。
働く期間が限られているため、一般雇用者との公平性を鑑みて保険料を高くしているそうです。
2つ目は、建設業は他業種よりも補助金制度が多いからです。
雇用関係の助成金は、雇用保険が財源の一部となっています。
雇用保険に支えられている助成金制度の中で、建設業が使えるものが多いのも、保険料が他業種より高くなっている要因なのです。
偽装一人親方とはなに?
偽装一人親方(偽装請負)とは、実際は企業に雇用された一社員なのにも関わらず、企業が社会保険料の支払から逃れるために、社員を外注した一人親方として働かせることです。
社会保険への加入が義務化されたことで、問題として挙げられるようになりました。
偽装一人親方が問題なのは、雇用形態は今まで通り社員として変化ないのに、表面上だけ“一人親方”としていることです。
これは、社員に保険料の負担を押し付けて企業側での負担を無くそうという行為です。
偽装一人親方をする社員本人のことを何も考えていないことになるので、上司や社長に「名目上の一人親方にならないか」と言われたらしっかり断りましょう。
尚、偽装一人親方は違法就労として法律で禁止されています。
違反すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられ、建設業許可も取り消しになります。
小さな会社で社会保険料を払うのがきつい場合は?
下請業者であれば、元請業者に保険料(法定福利費)の支払いを求めることができます。
法定福利費を含まない契約は、建設業法第19条の不当に低い請負代金の禁止に違反する恐れがあります。
元請からの見積依頼書の様式や見積条件が決まっている場合でも、法定福利費を明示した見積書を提出して、法定福利費を確保しましょう。
見習い期間がある場合、いつ社会保険に加入させればいい?
見習い期間があったとしても、
- 所定労働時間が1週間で20時間を超える
- 最低でも31日以上その事業所で働く見込みがある
- 賃金月額が8.8万円であること
- 学生でない
労働者がこの条件を満たしている場合は加入させなければいけません。
尚、パート・アルバイトの社会保険加入が義務化されるのは2022年10月からです。
社会保険に加入して、従業員を守ろう
社会保険への加入は義務化されているので、今加入していない人はかなり少ないとは思います。
社会保険は従業員を守るための重要なものなので、加入を逃れようとせずに法定福利費を要求するなど別の解決策を考えましょう!
コメント